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福島地方裁判所 平成10年(ワ)77号 判決 1999年8月20日

原告

菅野謙一

外七名

原告ら訴訟代理人弁護士

小野寺信一

十河弘

被告

株式会社暖海荘

右代表者代表取締役

西島健司

右訴訟代理人弁護士

高山征治郎

宮本督

主文

一  原告らの主位的請求をいずれも棄却する。

二  原告らの予備的請求をいずれも却下する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  請求

(主位的請求)

被告は、原告各自らに対し、それぞれ五〇〇万円及びこれに対する平成一〇年三月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(予備的請求)

被告は、原告各自らに対し、平成一四年四月一六日限りそれぞれ五〇〇万円及びこれに対する同月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (主位的請求)

(一) 原告らは、左記の契約締結日に、株式会社である被告との間で、それぞれ五〇〇万円を預託して、被告の経営するゴルフクラブ「天明グリーンヒルカントリークラブ」のクラブ施設(福岡県相馬市小野字天明<番地略>所在のゴルフ場及びクラブハウスその他の付属施設)を一般利用者に比べ優先的かつ有利な条件で利用することのできる、同クラブ個人正会員となる入会契約(以下「本件会員契約」という。)をそれぞれ締結した。

(原告氏名) (契約締結日)

菅野謙一   平成三年四月 九日

菅野善文 同年四月一二日

菅野信義     同年三月 八日

一條勝男 同年四月一二日

一條俊光 同年四月一二日

小野寺よね子   同年三月 八日

佐藤勝男     同年四月 九日

木村光俊     同年四月 三日

(二) 右預託金については、ゴルフ場が開場した日の翌日から一〇年間の据置期間の経過後(平成一四年四月一六日限り)、退会した場合に返還するとの約定がある。

(三) 事情変更を理由とする解除

(1) 預託金返還の合意も本件会員契約の重要な要素である。

被告と本件会員契約を締結しようとする者は、必ず被告に対し預託金を支払わなければならず、その預託金額は五〇〇万円と極めて高額である。さらに、被告は、ゴルフ会員を募集するにあたって、「ゴルフ会員権は高騰を続ける。たとえ値が下がったとしても預託金は必ず返還される。」とセールストークをしており、原告らもこれらの言葉を信頼して本件会員契約を締結したものである。

即ち、本件会員契約において、預託金返還合意は重要な契約内容であり、元本割れを起こさないとの安心から会員らは五〇〇万円もの多額の預託金を納付したのである。

したがって、ゴルフ場の優先的利用権さえ滞りなく履行されていれば、およそ事情変更を問う余地がないわけではなく、預託金返還請求権に係る事情が変更し、当事者を本件会員契約によって拘束したのでは著しく不当な事態となる場合に、契約を解除することが許されるものと解するのが相当である。

(2) 被告の責任財産減少行為

被告は、本件ゴルフ場の土地、建物(クラブハウス)及びゴルフ場附属動産一式を天明グリーンヒル株式会社(以下「新会社」という。)に譲渡した。

本件ゴルフ場の土地建物には現在のところ多額の根抵当権が設定されているが、将来的には被担保債務は弁済することにより徐々に減少し、預託金返還請求権のための責任財産となり得るものである。また、本件ゴルフ場施設から揚がる収益こそが、原告らの預託金を返還する原資であるにもかかわらず、被告は、その収益確保の基盤となる一切の施設を新会社に譲渡して、いわば丸裸となってしまった。

原告らにとっては、被告が本件ゴルフ場施設を所有するという実体を有さず、ペーパーカンパニーというような状態になってしまうことは全く容認できず、本件会員契約締結時には全く予想されなかったことで、重大な事情変更である。

(3) 預託金返還不能

被告が、会員各位に宛てた、平成九年九月二〇日付け「株主会員への転換のご案内」と題する書面(甲一八)、平成一〇年六月一五日付け「株主会員への転換へのお願いと手続のご説明」と題する書面(甲二二)、「株主会員権への転換Q&A」(甲二八)において、据置期間経過後に預託金を返還できないと言明したことからも明らかなように、被告が預託金を返還することは全面的に不能となっている。

預託金返還が不能であることは本件会員契約締結時には原告らにおいて全く予想しなかったことであり、事情変更の重大な一要素である。

(4) ゴルフプレー権喪失のおそれ

ア 弁済協定の未成立と内容の不安定性

本件ゴルフ場土地建物について、西松建設株式会社が極度額二七億円の、株式会社福島銀行が極度額一〇億円の根抵当権をそれぞれ設定している。被告と西松建設株式会社及び株式会社福島銀行との間で、明確な被担保債務の弁済協定が成立しているわけではなく、担保権が実行されれば、新会社は被告にゴルフ場を使用させることもできなくなり、原告らのゴルフプレー権も失われる。

イ 新会社に経営能力なし

新会社の代表取締役は、被告代表者西島健司であり、新会社の取締役は、被告取締役佐久間幸治である。新会社がゴルフ場の経営能力を高めていることを見いだすことは困難である。

ウ したがって、弁済協定すら未成立の上、経営能力のない新会社に資産を譲渡して、原告らのゴルフプレー権の喪失の危険を招来せしめたことは、事情変更の一要素となる。

(5) 株主会員制への移行の仕組みそのものが当事者間に不公平をもたらす。

仮に、新会社が経営に失敗し、破産することになった場合、株主会員はゴルフプレー権すら失うことになり、また、預託金返還請求権は新会社に現物出資してしまっていることから、被告に対して請求することは既にできなくなっている。

したがって、株主会員は新会社が破産した場合、ゴルフプレー権及び預託金返還請求権の二重の損失を被りながら、被告は預託金返還義務を免れ、旧ゴルフ場経営や新会社によるゴルフ場経営の責任をも免れることになり、これは、当事者間にとって全く不公平であり、このような仕組みを会員に提供すること自体も、事情変更の一要素である。

(6) 説明義務違反

被告は、新会社への移行を強制しようとしている。しかも、被告は、当初どの程度の資金計画でゴルフ場を経営し、どのようにして預託金返還のための原資を捻出しようと計画していたかを全く説明しない。また、ゴルフ場経営によって被告ないし新会社が負担している残債務額や、新会社によって今後あげられる収益についての説明も全くしない。

かかる被告の態度は、本件会員契約に付随する説明義務に違反するものであり、説明義務を尽くさないまま、「株主会員制になるから移行してほしい」というのは、原告らとの信頼関係を破壊する行為であり、事情変更の一要素となる。

(7) 平成一〇年三月二七日到達の本件訴状をもって本件会員契約を解除するとの意思表示をした。

2  (予備的請求)

(一) 本件では、原告八名がそれぞれ五〇〇万円、合計四〇〇〇万円の返還を求めており、被告がこれを一時に準備して履行することはほとんど不可能である。また、据置期間満了時には、原告ら以外の会員からも返還を求められることは必至であり、被告に預託金返還に応じる能力がないことは明白である。

(二) 被告は、預託金返還を免れるために、各会員に株主会員制ゴルフ場への移行を勧めており、甲二八号証Q11において、「新会社に移行しない場合、預託金の返還を受けることは事実上難しい」と明言し、既に多くの会員に預託金返還を断念させ、株主会員権への転換手続をさせており、被告が期間満了時に任意の履行をするとは考えられない。

3  よって、原告らはそれぞれ、被告に対し、本件会員契約の解除に基づく預託金の原状回復請求として五〇〇万円及び訴状送達の日の翌日である平成一〇年五月二三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、これが認められない場合は、原告らはそれぞれ、被告に対し、平成一四年四月一六日限り、預託期間満了に基づく預託金返還請求として五〇〇万円及びこれに対する同月一七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1(一)及び(二)の各事実を認め、その余は否認ないし争う。

三  抗弁

1  請求原因1(三)に対する抗弁(評価障害事実)

(一) 被告が企図している株主会員制ゴルフ場への移行は、本件会員契約の中核的権利である会員のゴルフ場施設優先的利用権の保護を図るために提案したもので、個々の会員の同意を前提に進めているものである。その内容は、①株主会員制ゴルフ場を営むことを目的とする新会社を設立し、②会員らに対し、被告に対して有する預託金会員権を新会社に現物出資するように促す。③新会社が被告からゴルフ場施設を買い取り、④現物出資の結果、被告に対して有するに至った預託金返還請求権をもって、被告に対し代物弁済し、⑤新会社が現物出資者との間で会員契約を締結し、株主会員制ゴルフ場を経営するというものである。新会社を設立の上、新会社にゴルフ場施設を譲渡し、新会社を運営会社とするのは、税務対策上、巨額の預託金債務の債務免除益を発生させないためやむを得ない手法である。

現在のところ、預託金額面五〇〇万円の会員五七二名の内約三四〇名が同意しており、今後右の同意しなかった会員と預託金額面が五〇〇万円以外の会員の合計四五七名を対象に勧誘と募集を行う予定である。しかし、あくまでも、会員の個別的な同意に基いて進めなければならないことは当然で、これを強制的に進めることはできず、同意していない会員が据置期間満了時に預託金返還請求権を行使し得ることは当然である。

(二) 本件ゴルフ場施設一切の所有権の移転は、それがゴルフ場営業から生じる収益やゴルフ場営業用動産類を伴うため、土地建物の固定資産税評価額約一一億円を大幅に上まわる三〇億円九九〇〇万円を代価とする売買契約に基いて行われたもので、被告は新会社に現物出資される預託金返還請求権による代物弁済を受ける結果、約三一億円の預託金返還債務を免れることとなるのであり、むしろ被告にとっては有利な取引であり、財産の流出などとはいえない。

2  予備的請求に対する本案前の主張

原告らの予備的請求は、その訴訟要件となる将来請求の必要性に欠ける違法なものである。

預託金返還請求権は、履行期における履行を得なければ目的が達せられない権利ではなく、性質上から当然に「あらかじめその請求をする必要がある場合」となるものではない。

また、被告において、据置期間満了時における給付義務、給付条件を争うものではなく、履行期到来のとき任意に履行しないおそれがある場合でもない。

四  被告の主張に対する認否

否認ないし争う。

理由

一  主位的請求について

1  請求原因1(一)及び(二)の各事実は当事者間に争いがない。

2  甲一八、一九、二二ないし、二八、乙一六、一七及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の各事実が認められる。

(一)  平成九年九月二〇日、被告は、天明グリーンヒルカントリークラブの全会員に対し、「株主会員への転換のご案内」と題する書面を送付し、被告が平成一三年から始まる預託金償還に応じられないこと、そして会員から被告の設立した新会社に対して預託金会員権の現物出資を受けることにより、預託金会員制のゴルフ場から株主会員制のゴルフ場に移行したい旨を表明した。転換比率は、預託金六〇〇万円の正会員権一口に対し株主正会員権三口、預託金五〇〇万円の正会員権一口に対し株主正会員権二口、平日会員権一口に対し株主正会員権一口であった。

(二)  新会社は、平成九年七月三一日に、被告の代表者らを株主として資本金二〇〇〇万円で設立された。新会社の代表取締役には被告の代表取締役が就任しているが、右「株主会員への転換のご案内」と題する書面では、新会社の株主総会において株主会員の総意で代表取締役が選任されるまでの暫定的な地位であるとされている。

同年九月三〇日、被告は、新会社に対し、本件ゴルフ場の土地、建物及びゴルフ場付属動産一式を三〇億九九〇〇万円で譲り渡した。新会社は、平成一四年一二月三一日以降、右代金を預託金会員から行われる予定の現物出資により取得する被告に対する預託金返還請求権と一括相殺することにより支払う予定としている。

一〇月一日からは、新会社が本件ゴルフ場の経営を行っている。なお、被告は、新会社との間で、被告が会員契約をしていた預託金会員については、新会社の株主会員になるまでの間、本件ゴルフ場におけるメンバーとして、引き続きその優先的ゴルフ場施設利用権は確保するとの合意をしている。

(三)  平成一〇年六月一五日、被告は、会員らに対し、「株主会員への転換へのお願いと手続のご説明」と題する書面、株式引受書、天明グリーンヒルカントリークラブ入会申込書、株主会員制天明グリーンヒルカントリークラブ会則及び「株主会員権への転換Q&A」を送付し、被告は債務超過の状態にあり預託金返済に応じる原資がないこと、会員の優先的ゴルフ場施設利用権を確保する方策としては株主会員制のゴルフ場への移行しかない旨を再度訴え、まず預託金額面五〇〇万円の会員について現物出資の受付手続を開始した。

(四)  本件会員契約に基づく会員八一〇名の内、預託金額面五〇〇万円の会員五七二名を対象として、平成一〇年六月一五日から同年一二月一五日までの間、現物出資の募集を行ったところ、三四〇名の会員が募集に応じた。さらに、預託金額面が五〇〇万円以外の会員や右申込期間中に応募のなかった会員に対する募集手続を行うこととなっている。

(五)  現在に至るまで、原告らも含め、募集に応じなかった会員についても、本件ゴルフ場での優先的ゴルフ場施設利用権の行使は支障なく行われている。

(六)  本件ゴルフ場の土地及び建物については、西松建設株式会社を根抵当権者とする極度額二七億円の、株式会社福島銀行を根抵当権者とする極度額一〇億円の根抵当権がそれぞれ設定されている。被告は、西松建設株式会社との間で、概ね毎年の弁済額一〇〇〇万円とし、経済状況の変動等に応じて増額方向で再協議するという内容を軸として和解協議を進行させているが、明確な弁済協定を締結するまでには至っていない。

3(一)  原告らは、被告が新会社に対して本件ゴルフ場の土地、建物及びゴルフ場付属動産一式を譲渡した点を捕らえて、解除権を根拠付ける重大な事情変更であると主張する。

なるほど、2(二)で認定したとおり、被告は、本件ゴルフ場の経営権を含め、一切の施設を新会社に譲渡し、静岡県熱海市において従前から営んできた旅館業に係る物的施設や営業利益はさて置くとすると、本件ゴルフ場に関する限り、営業収益の基盤となる全ての物的資産を失い、多額の預託金返還債務のみが残るという状態になったものである。

(二) しかしながら、新会社への本件ゴルフ場の施設一切、経営権の譲渡は、預託金会員制ゴルフ場から株主会員制ゴルフ場への移行を円滑に行うことを企図して行われたものである。

据置期間満了時に預託金の償還請求を一時に受けた場合、被告は到底これに応じることができず倒産せざるを得ず、原告ら会員は、預託金の返還を得られないばかりか、優先的ゴルフ場施設利用権までも喪失することは明らかであり、このような状況の下、会員の優先的ゴルフ場施設利用権の保護、存続を眼目として、預託金会員制ゴルフ場を株主会員制ゴルフ場へ移行させようと企図することは、一面で被告にとって預託金返還債務を全面的に免れることとなるという多大な利点があることは否定できないものの、それなりの合理性を肯定せざるを得ない。そして、平成一〇年六月一五日から一二月一五日までの間に行われた現物出資の申込受付において、預託金額面五〇〇万円の会員の約六割の申込が得られたことは、今後も相当数の会員の申込が得られる蓋然性を相当程度窺わせる。

そして、新会社を設立することなく、単純に被告に対して現物出資を求める方策を採ったのでは、被告に巨額の預託金債務の免除益が発生して、税負担を課されるおそれがあることから、法技術上新会社を設立し、これにゴルフ場施設等を譲渡する手法を採らざるを得ないというのであるから、被告から新会社に一切の積極財産を移転する結果となることもやむを得ないものというべきである。

(三) しかも、本件ゴルフ場の建設にあたっては、用地取得費用五二億五〇〇〇万円、造成等費用約六〇億円等合計約一二〇億円の資金を要したにもかかわらず、会員募集により集めることのできた資金は、当初の資金計画の予想を遙かに裏切り、預託金約四〇億円、入会金約五億円止まったことから、本件ゴルフ場の土地建物については、当初から造成等工事業者である西松建設株式会社の極度額二七億円の根抵当権他の担保権が設定されており、本件ゴルフ場の土地建物の固定資産税評価額は約一一億円余りに過ぎない(以上、弁論の全趣旨)のであるから、そもそも本件ゴルフ場の土地建物は、預託金返還請求権の引当財産となる余地はないものというべきである。原告らは、被担保債務を弁済することにより剰余の生じる余地があると主張するが、およそ現実的な話ではない。

また、本件ゴルフ場の営業による収益といったところで、営業費用が営業収益を上回り、経常損失を計上する状況であり(甲二三)、営業収益から預託金返還のための原資を蓄積するということも、およそ現実的ではない。

畢竟するに、客観的には、本件会員契約の当初から、各会員が預託金として支払った金員の回収は、ゴルフ会員権を市場で売却することによって図るしか術がなかったわけである。

したがって、預託金返還請求権の引当財産という点からは、被告において、本件ゴルフ場施設の所有権やゴルフ場の経営権を失ったとしても、さほど事情が変更したわけでもなく、ゴルフ場の優先的な施設利用権が確保されている限り、本件会員契約の基礎となった事情に著しい変更はない。

今日、ゴルフ会員権の市場相場が預託金額面を下回る状況であることは公知の事実であり、会員が支払った預託金を回収するという面からは、まさにこのことこそ本件会員契約の当時の予測を裏切るものといわざるを得ないが、これは、経済情勢の見通し、会員権相場の予測を誤ったに過ぎず、契約の基礎となった事情の変更にはあたらない。

(四) 以上検討した点に加えて、そもそも、預託金返還請求権は単なる金銭債権であるから、前記2(五)のとおり、原告らに優先的ゴルフ場施設利用権が確保されている以上、預託金返還請求権の引当財産となる被告の一般財産が減少してその満足が得られなくなるおそれがあるとすれば、債権の履行期の到来していない一般債権者としては、詐害行為取消権を行使して一般財産の保全を図るか、あるいは、支払不能や債務超過を立証して被告に対する破産宣告を申し立てることが法律上与えられた権利救済の筋道であることをも加味して総合勘案すると、被告が新会社に対して本件ゴルフ場の土地、建物及びゴルフ場付属動産一式を譲渡した点をもって、解除権を認めることができる程の重大な事情変更に該当するということはできない。

4(一)  原告らは、被告が預託金据置期間経過後に預託金を返還することができないと言明し、預託金の返還の不能が明らかになったことをもって、事情変更にあたると主張する。

(二)  前記3(三)で判示したとおり、本件ゴルフ場の土地建物は無剰余で預託金返還請求権の引当財産とはなり得ず、ゴルフ場経営による収益も支払のための原資を蓄積することは困難であり、客観的には、ゴルフ会員権を市場で売却することによって、支払った預託金を回収するしか術がなかったものであり、このような客観的な状況は契約当初も現在も何ら事情の変更がない。

本件会員契約当初、ゴルフ会員権の市場相場が預託金額面を下回る状況となることを、契約当事者が予測しなかったとしても、これは単に経済的な見通しを誤ったに過ぎず、事情の変更とはいえない。

(三)  以上の点に、前記3(四)でも判示したとおり、預託金返還請求権は、履行期の定めのある金銭債権であるから、その支払不能が明らかになった場合には、破産宣告を申し立てることが法律上与えられた権利救済の筋道であり、一部の債権者のみが履行期も到来していないにもかかわらず、抜け駆け的に優先弁済を受けることは許されず、原告らの主張は採用できない。

5  原告らは、担保権者との弁済協定すら未成立の上、経営能力のない新会社に資産を譲渡して、原告らの優先的施設利用権の喪失の危険を招来せしめたと主張するが、前記2(五)で認定のとおり、現在に至るまで、原告らも含め、募集に応じなかった会員についても、本件ゴルフ場での優先的施設利用権の行使は支障なく行われており、そもそも株主会員制ゴルフ場への移行は会員らの優先的ゴルフ場施設利用権を確保することを目的として企図されたものであり、そのための手法として新会社に本件ゴルフ場施設等一切を譲渡したことによって、原告らの本件ゴルフ場施設の優先的利用権が制限されたり、喪失の具体的な危険が強くなったりしたことを窺わせる証拠はない。

6  原告らは、株主会員制への移行の仕組みそのものが当事者間に不公平をもたらすと主張するが、3(二)で判示したとおり、被告にとって預託金返還債務を全面的に免れることとなるという多大な利点があることは否定できないものの、会員にとってもそれなりの利点、合理性を肯定せざるを得ず、当事者間に不公平をもたらすとまでいうことはできない。

7  原告らは、株主会員制への移行を勧めるにあたって、会員に対して十分な説明をしていないと主張する。

しかし、前記2(一)、(三)で認定のとおり、被告は、株主会員制への移行について、会員に対して二回に渡って書面で通知、説明しており、平成一〇年六月一五日の二回目の書面による通知においては、新会社の有価証券目論見書、新会社の会則及び「株主会員権への転換Q&A」を添付するなどそれなりの説明をしているといえ、本件会員契約を解除することが認められる程の事情変更には該当しないことが明らかである。

8  よって、原告の主たる請求は理由がない。

二  予備的請求について

1 将来の給付の訴えが認められるのは、予めその必要性がある場合に限られ、右必要性は、仮差押や仮処分の必要性とは異なり、履行期到来または条件成就の時、債務者が任意に履行しないおそれがある場合または請求権の性質上適時に履行されなければ意味を失う場合をいうのであり、将来の給付の訴えの必要性の判断にあたっては、債務者の資力その他執行の困難性は考慮する余地がない。

原告は、被告が預託金の預託金据置期間満了時に預託金の返還債務を履行することが困難な状況であることを理由とするが、これは執行の困難性をいうにすぎず将来給付の訴えの必要性の理由とならない。

2  原告は、被告が各会員に株主会員制ゴルフ場への移行を勧めていること、被告が預託金据置期間満了時における支払を内容とする訴訟上の和解に応じないことをもって、被告が預託金据置期間満了時に任意に預託金を返還する意思を有していないことは明白であると主張する。

しかしながら、被告は、本訴において、「原告らの求める平成一四年四月一六日時点での預託金返還義務につき一切を争うものではない。」旨言明するところであり(平成一一年七月一五日付け被告準備書面第二、一)、預託金会員権を新会社に現物出資し、株主会員制ゴルフクラブの会員となるか否かは会員らの任意の意思によるもので、これに応じない会員は預託金返還請求権を行使することは何ら妨げられないという建前からすると、被告が各会員に株主会員制ゴルフ場への移行を勧めているからといって、被告が任意に履行しないおそれがあるとまでいうことはできない。

また、現段階において、被告が預託金据置期間満了時における支払を内容とする訴訟上の和解に応じないからといって、直ちに任意に履行しないおそれがあるとまでいうことはできない。

3  よって、本件において、将来給付の訴えの必要性を認めることはできない。

三  結論

以上のとおりであるから、原告の主位的請求は理由がないからこれを棄却し、予備的請求は将来給付の訴えの必要性が認められないからこれを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官生島弘康)

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